今回は、怒髪天のニュー・アルバム『LIFE BOWL』完成記念として作品を論ずる番外編。増子が1曲ごとに楽曲を解説する。
ライフボウルの意味は人生丼。人生を嘆く前にアルバムを聴け!
[M-1]
『不惑 in LIFE』
リズムを刻んだ上原子(怒髪天・ギター)のギターを1本丸ごまるまる削ったんだよね、勇気がいる行動だけど。
それで、ギターウルフのセイジにギターで参加してもらった。
この曲を作ったとき、70年代のアーリーパンクのガレージっぽい音を出したくて。
そのあたりのプロフェッショナルといえばセイジだろう。
セイジは、中学生のころ最初に買った「カンフーギター」を持ってきてくれたんだよ。
ブルース・リーのステッカーを貼っているからカンフーギターという名前らしい。
セイジが自分でスイッチ切るところまで音が入っているのは、さすがとしか言いようがない!
望んだこと以上のことやってくれるんだよな。ミラクルだ。
セイジへのオーダーは「好き勝手やって! メチャクチャに」。あんないいハブリングは普通出ないよね。
[M-2]
『ドンマイ・ビート』
男と女という性別をモチーフにしたものを作りたかった。
2番で女心を書いているけど、これは漫画の「臨死!江古田ちゃん」を読んで学んだからね!
歌詞の「ツイているとかいないとか」は、ラッキーとアンラッキーという意味の「ツイている」でもあるけど、実は、男のモノの「ついている」もかけている。
さらに「デッカく生きようゼ、ちっちゃい事は気にするな」という歌詞の「でかい、小さい」も、そのような意味が入っている。
結局、トリプルで意味が入ったんだな。
若者で四つ打ちしているバンドはたくさんいるけど、若手に対する俺たちなりの答えがこの曲。
80年代風のダンス・チューンにしたくて、BEAT CRUSADERSのケイタイモにキーボードで参加してもらった。ぴったりだった!
これはディスコ調の曲だし、1ワードでいいと思った曲。要するに「ドンマイ!」だけでいい。
ドンマイって言葉自体が死語に近いけど。それが面白い。
[M-3]
『青の季節』
俺にとって、ハードルの高かった1曲。
歌詞に出てくる「オマエ」は、昔の友達でも恋人でも、どっちでも取れるように書いたもの。
もちろん、俺の中では何人かモチーフがいて、そこに捧ぐんだけど、聴く人がどうにでも取れるような「オマエ」にしたかった。
今回のアルバムでは、ピンポイントで短い瞬間を書きたかった。
今までなら、この曲みたいに部屋の中の5分ぐらいの出来事では終わらない。
懐かしく思って町に行って、酒を飲んで家に帰って寝て・・・そこまで書いていたと思う。
でも、あえて瞬間を切り取って『軽く深く』をテーマに、狭く。
風景とか叙景詩とか、その場面だけを歌詞にして。
本当はうまいこと言いたくなるし、いいキーワードで締めたくなるのが本音。
でも、そこまで強くない、ふと思い出しただけのことも日常にはある。
うまいことまとめずに、一言で終わらせず、オチもなく、さりげなく、瞬間だけ、自問自答で終わる。
だから、どうした、と次に転がる前の段階なんだよね。
[M-4]
『男と書いて』
よく聴くとバカなんだけど、パッと聴くとカッコいい曲。
コーラスは「うぉとこっ!(男)」だよ。バカみたいだ。
1曲のなかに「男」がいくつ入るかっていうのは裏テーマ。
数えたら22個入ってる。
すごいアホらしいけど、ずっと歌にしたかったテーマだったから。
「男と書いてバカと読む」は昔からの大テーマ。
俺はそういう男でありたいと思うよね。
歌詞の「吼えろ 太陽に」は、もちろん『太陽に吼えろ』を意識したもの。
この曲のギター、まるで「太陽に吼えろ」の追跡シーンに入るようなギターだからなぁ。
「灰になるまで」という歌詞は『あしたのジョー』から。
「アティテュード」って歌詞に使っているけど、ちょっと間違えてアチチュードになりそうだ。
[M-5]
『3番線』
バラードというくくりにせず、テンポも速めに作った曲。
スタンダードで普遍的なもの、みんなが聴ける歌を作りたかった。
クラムボンのミトくんにキーボードで参加してもらったんだけど、こっちが提示したキーワードは「アンビエント」。
要するに環境音楽なんだけど、そもそも音響系なんてオレら怒髪天とは真逆の世界。
でも、ミトくんのキーボードと合わせたらしっくり!
バンドを分かっているミトくんがやってくれて、ちょうどいい感じで仕上がってくるんだよね。
完全にミトくんの力量だけど。
鍵盤の音で空間と奥行きが広がった。遠くにものがある、ほわぁん、という感じ。素晴らしいよね。
電車乗ってると、どっか行っちゃいたいって思うことあるでしょ?
逃げるほど重くなく、特に目的もなく、ただぼんやりと「それもいいかな」って。
そのぼんやりした感じを書いた。
ツアーのとき電車に乗ってると、途方もない気持ちになることがある。
窓の外の知らない家の窓を見ていると、ドラマとか生活とか俺の知らないそれぞれの生活があるんだろうな、と。
そもそも夕焼け系って俺らの曲の得意技。
それの集大成であり、なにかプラスしてみたかった。
俺は夕焼けが好き。哀愁と黄昏がいいよなぁ。今日も終わるのか・・・って。
[M-6]
『好き嫌イズム』
これは俺がいつも言ってること。
俺のこと好きなヤツだけが大好きで、俺のことをキライなヤツは大嫌い。
これが基本。
大人になったら、人間関係とか、仕事の都合とか、一概には言えないことが増えて判断基準が鈍らされる。
そこでだ。ここは、明確なものを提示しておくべきだ、と。
結局みんな自分王国だから。そこで選んでいいんだよ、という提示。
人間関係で困っている人もいると思う。
そんな人へ、ひとつ、俺なりの回答。
もろもろのしがらみもあるだろうけど、基本、これでいいんじゃないの!
俺だって、妙にみんなに好かれたい、という気持ちもある。そういう自戒の念も込めて。
曲の最後には「嫌い」ばっかり言ってるけど、実はそれが一番言いたい!
[M-7]
『俺ころし』
誰でもあるでしょう。自分を殺したこと。
俺も、会社で働いているころ、よく自分を殺した。
上司に対して言いたいことがあっても、ぐっと我慢して「すみません」と言わざる得ない状況もあった。
はい、これでまたひとつ殺すわけだ、自分を。
「これで丸くすむなら」と思って、1人死んでいる、俺が。
撃たれたか、刺されたかして。
悲しいかな、自分の中にいる殺し屋は優れた殺し屋なんだ。絶対に黙らせる。
もし、殺し損ねたら大変なことになるからな!
結果的には自分が苦しい状態に置かれることになる。
この曲は、サウンドがかっこいいのにバカ歌詞。「大人版みんなのうた」だ。
夜中に放映してほしい、「大人版みんなのうた」としてアニメーションで。
ベタな殺し屋が出てくるような映像で見てみたい。
[M-8]
『なんかイイな』
これは近所で見かける若者たち、近所のシド・ビシャスたちを歌ったもの。
実際に3人ほどモチーフがいる。
俺の立場から言えないけど、「こいつら将来どうすんだろう」と思ってしまう若者がいて。
しばらく見なかったら、そいつが子供抱いていたんだよ!
「なぁんだ、オマエのほうがしっかりしてたんかよ! むしろ俺のほうが心配だ!」と。
その瞬間、人間て素敵なもんだ、と思うよね。
その若者は友達じゃないから「素晴らしい!」と思うほどの感情ではなく、「なんかイイ」ぐらいのものなんだよね。
「なんか」は「なんか」でしか表せない
基本的に知らない人だから声かけるほど仲良くないし。
向こうにしてみたら、俺がイキナリ声をかけても余計なお世話だしな。
俺も、昔、実演販売の仕事でスーツで出かけることもあったんだけど、挨拶ぐらいしかしなかった焼き鳥の親父が、「お、就職決まったのか?」って言ってきた。
そのおっちゃんにしてみたら、まさに俺が近所のシド・ビシャスだった
人と人って、意外と繋がっていて、成り立っている。
そんな中でちょっといいことがある。
人間って可愛いなって思うよね。
この曲を作れて良かった。
何が良かったって、"なんかイイ"んだよ。
どの街にもシド・ビシャスはいる。絶対にいる。
[M-9]
『酒燃料爆進曲 Album Ver.』
前回のシングルのリード曲のリミックス・バージョン。
低音でロックっぽくしみた。
聴きどころは、1箇所だけ。坂さん(怒髪天・ドラム)の台詞入り。
台詞というかボヤきだな。心の声がポロリと出てしまったみたい。まったく、酒の歌なのに・・・。
[M-10]
『不惑 in LIFE reprise』
あんまりにいいセイジのテイクがあったからプラス。
これは1曲目から続いていて、また1曲目に戻る。
こういう繰り返しはやってみたかったから。


