――そして、女優として......。次々と話題作に挑み、公開中の映画『人間失格』では、主人公の葉蔵の最後の女、鉄を演じている――
三田:「映画『人間失格』、これはまた『印獣』と正反対。これは老いたる女なんです。相手が葉蔵役の生田斗真君で、まだ二十四、五ですよ。もう孫のような若い方。キャリアとかそういうので言えばもう本当に大人と子どもぐらいですよ。でも、対等に芝居をする。これはね、ずいぶん昔に薬師丸ひろ子ちゃんが二十歳のとき、彼女が新人女優で、私が大女優の役で、二人の女が戦うという話があったんです。で、あのときはまだね、私も時のアイドルと仕事するなんてどうなんだろうって思いました。ただ、大ベテランで一緒に仕事するっていってもね、意味がないから。『じゃあ、一緒に戦わせてくれる?』って。本当に役どおり、『若い女優とベテランの女優というだけの関係で一緒にやれるなら、やってもいい』って言って受けたんですよ。
横内:「『Wの悲劇』だね」
三田:「私にはすでにキャリアがあって、『私の胸を貸すわ』ってそうじゃない。一緒に戦うっていうのをやったんです。それを今、思い出して、斗真君と一緒に仕事してね、私は老いた女の役ですけれど、これがまた得体が知れない女なのよ」
横内:「得体の知れない女好きね(笑)」
三田:「だって、そういうのが来るのよ、私。得体が知れない女。それで、『人間失格』のときは、荒戸源次郎監督に聞いたんです。『これ、台本に書いてあること、大変よ!』って、そうしたら荒戸さんから『大丈夫です、三田さん。そのままでやってください』みたいなことを言われて(笑)。もう本当に対等にやるしかなかったですね、斗真君と私が。久々に、ひろ子ちゃんとやったときぐらいの、なんかそういう感じでした。古田さんとかも、『Wの悲劇』を観たのが大学生だったんですって。官九郎さんは高校生ぐらいで。それで、あの映画を観て、『もう大女優は三田佳子だ!』と。だから、何十年前のあれが役立ってたんですね(笑)」
横内:「大女優だ」
三田:「あのときは、蜷川幸雄さんが舞台の上で言うの、『台詞だと思って言ったらダメ』って。舞台の下には、大ベテランの南悠子さんやら、本当の役者がいるのよ、ずらっと目の前に。そこで私が、その役者や演出家の前で、『女優は......」ってやるわけよ。みんなは、こう腕を組んで、疑りっぽい顔で、この憎たらしい女優を観てるわけでしょ?」
横内:「三田佳子が『大女優』を演ってるって。さあ、どうする?って傍観している」
三田:「でもね、そこで私は三田佳子じゃだめなわけで、羽鳥翔という、もう鼻持ちならない大女優(笑)。ね、同業者が冷ややかな目をして観ている前で芝居をするのよ、やれる?」
横内:「できないよ(笑)」
三田:「できないわよ。その時、『私は三田佳子だったらダメ』と。もうそこに出ていったら、何の台詞を言おうかなって考えてないぐらいに、台詞が胸に入ってないと。『なによっ! あんたたち、そんなことできないの!』って、あれ、何にも考えてないんですよ。羽鳥翔っていう女の人の、鼻持ちならない女優の感情だけでやっていましたね。だから、蜷川さんは喜んじゃって、『もっとやれ、もっとやれ!』って。休み時間になったら、上がって来てね、『いいねぇ。もっとやって。もっとやって平気だよ』なんて言いながら、『そう?』って、私もクラクラしちゃってね。もう台詞言ったかどうか覚えてないくらい、そういう感じね。
今回、『人間失格』で斗真君とやって、もう監督の言うまま、『これ、どうするの?』って、それであんなことなのよね。まあ、今回の私が演じた鉄は、精霊が宿る樹木から降り立った人のような女性なんだな、と捉えてね。監督にも「美しくいてほしい」と求められて、生田斗真君を相手に闘ったわよ(笑)」
横内:「ぜひ拝見します。女優業と言ったら語弊があるかもしれないけれども、すばらしい人生だと僕は思いますよ」
三田:「スポーツの選手と条件は一緒じゃないかなあって思うんですよ。老いようが若かろうが、最後はできるかできないかしかないんですよね。弱い所もあって初めて強さが目立つ。だから、醜い姿があって、初めて美しさが見える。そういう重層的なものがないと、本当の美しさは表に現われないと思うのよね。とくに私たちは人間を演じ、人の人生を演じるんだから、葛藤や弱さは必要なことなんですよ」
横内:「今の言葉、最高!すばらしい、三田語録だ(笑)」
三田:「私も苦労しなければ何もわからなかったと思うんです。でも、私は女優をやめられなかったし、やめさせてもらえなかった。それに、これまで病気をしても死ななかったのは、『生きろ』っていうことなのかなあって」
横内:「三田さんはもっと女優として生きろという啓示なのかも。そう僕は思いますよ。今日ね、僕、言ったでしょう。『世の中には男性と女性、そして女優がいる』って。それはちょっと言いすぎたかもしれないなあ。だって、三田さんみたいに、こんな女っぽい人はいないもん。だから、女性だっていうことをあんまり礼賛しちゃうと、ちょっと個人の男としての色が付きすぎちゃうもしれないから、ちゃんと一線を隔して、先輩というか大女優さんに対して、僕は、女優というこの畏敬のニュアンスで言ってるんであってね......ってちょっと言い訳っぽいな(笑)。言いたいことは、三田さんという方は、女優であり、なおかつ女性である。もう一番典型的な方であることは事実ですよ。紛うこと無きね』
三田:「でも、男っぽいんですよ、私」
横内:「だから、そこなのよ。女の方なのよ。でも、女優というのは、女性では勤まり得ないぐらい強靭な精神力と肉体力を求められるということですよ。ですから、それを三田さんはおやりになってらっしゃるということよ」
三田:「でも、私ね、最近思うんだけどね、俳優が行き着くときはね、男は女に、女は男に、両性具有に達して初めて一人前なのかなあって」
横内:「確かに」
三田:「だから、横内さんも『男の中の男』と思っていても、そろそろ女っぽいところもね、混ざってきてるはず。それでいいんですよ。私も、女っぽいと言われながらね、いつの間にか男性的な、そういうある種、自分で意識しない強さがこっちへ入ってきているんです」
横内:「なるほどね」
三田:「そろそろじゃない(笑)?」
横内:「いやいや(笑)」
三田:「こういうね、演劇論とか俳優論とかって、しゃべったことないわね。本当に、なんかやめられないぐらい楽しいわ」
横内:「本当にそうだね」
三田:「言葉が通じるしね。通じない場合があるでしょう? 言っても『なんだろう?』っていう感じ。だから今日は本当に幸せなひと時でした。こういう話が役者同士したいのよね」
横内:「そうなんですよ」
三田:「本当、なかなかできないですよ。今日、どうしてできちゃったのかな」
横内:「こちらこそ、今日はありがとうございました」
対談は本日で終了です!
ヨコ様がアーネスト・ヘミングウェイ役で出演する舞台
『ディートリッヒ~生きた 愛した 永遠に』
東京公演は3月12日(金)~3月28日(日)まで、青山劇場にて、
大阪公演は4月3日(土)と4日(日)、梅田芸術劇場メインホールにての上演されます。
詳しくは公式HP:http://www.dietrich.jp/






